返事が来ないまま、5回目の翻訳依頼

投稿者: 香坂湊 投稿日:

午前10時16分、翻訳依頼。
同じ手紙の翻訳は、今回で5回目。
依頼者は内容に変更を加えていない。
毎回「言葉を変えてみてほしい」とだけ依頼してくる。


内容は短い。
宛名も結語も、感情も抑えめ。
ただ、主語が毎回微妙に変わっている。
「私は」「ぼくは」「わたくしは」「自分は」「――は」。


木蘭ペンギンが翻訳文のホログラムを読みながら、
表示:

🐧「“返事が来ない”って分かってて出すの、立派な病気ですよね」
(※すぐに「すみません。皮肉です」と追記が表示された)


藤本が机にあった旧訳文を勝手に赤ペンで添削し、
欄外にこう書いた:

「言葉を変えるってことは、
 “変わらないものがある前提”でやる作業なんだよ」

返事はしなかった。訳文は納品済み。


📎備考:

“手紙は、出した時点で“受け取られる”と思っている。
 でも“誰にも読まれなかった文面”ほど、
 その人の言葉が詰まっている。”

カテゴリー: 主任日誌