破棄してほしい手紙があります
午後12時38分、文書処理依頼。
内容は、「10年以上前に自分が書いた手紙の破棄を代行してほしい」というもの。
封筒は黄ばみ、裏面には誰かが指でこすったような跡があった。
「自分で処分すればいいんですけど、
“誰かに見届けてもらいたい”という気持ちが強くて」
紙は薄く、折り目は硬かった。
開封はされていない。
つまり、この手紙は一度も読まれていない。
文面を確認する許可は出ていない。
内容は不明。
ただし、封筒の表にはこう記されていた:
「あなたがこの手紙を読むことは、もうないと思います」
封筒を封のまま、木蘭の記録保管処理用の封筒に入れる。
処理手順に従い、断裁機ではなく、時間指定の焼却処理を選択。
理由は「紙質が特殊だったため」。実際には、香坂の個人的な判断。
処理工程の直前、VOID端末が一度だけ作動。
木蘭ペンギンが焼却前の封筒を撮影しようとしたため、遮断。
AIの「記録しないことを記録に残す」機能が作動していた可能性あり。
藤本が「焚き火の香りがいいんだよ、紙ってさ」と言っていたが、関係性は不明。
📎備考:
“読むことを拒んだ手紙ほど、
その人の中ではずっと、読まれ続けていたのかもしれない。”