通訳じゃない、通霊だ
午前11時半。
カウンター席に、男女が座っていた。依頼人。
結婚してるらしい。
妻は中国語、夫は関西弁。
言語は違うが、互いにわかるはずなのに──まったく会話が成立していなかった。
依頼内容は、
「夫婦の喧嘩の“誤訳”を正してほしい」だった。
香坂:「誤訳……ですか」
妻:「彼は“買い物行ったら?”と言ったのに、本当は“出ていけ”という意味だった」
夫:「オレそんなつもりちゃうで!お前が“もうええわ”言うたんや!」
翻訳じゃなくて、霊媒だろこんなの──と香坂は思った。
🐧木蘭ペンギン(手元ボードに浮かび上がる):
【感情はGoogle翻訳では通りません】
【主任、もうこれ心霊交信です】
香坂は何度か双方の発言を整理して返した。
「こういう言い回しは、“優しさ”ではなく“距離感”だと思われたようです」
「この発音は“怒ってる”と誤認されるかもしれません」
と、あくまで言葉の構造だけに焦点を当てた。
午後1時。
なんとか一応の“和解”になりかけた頃、
ふらっと昼飯ついでに藤本が来た。
藤本:「ああ、仲直り中?それって“妥協”ってやつ?」
藤本:「なら俺、通訳いらない。“嘘つき”って単語、どの言語でも発音似てるからな」
夫:「誰やねんお前!黙っとれや!」
妻:「あなた、なんでこんな人連れてくるの!」
💥→再炎上
香坂:「……藤本、部屋に戻ってくれ」
藤本:「じゃ、スープだけもらって帰るわ」
ペンギン:(ホログラムで“退場”の札を掲げる)
📎備考:
“翻訳は、言葉を伝えるだけ。
でも本当は、相手が何を信じたがってるのか、
そこに踏み込まないと無意味だ。”