証拠写真の平成感について

投稿者: 香坂湊 投稿日:

午前10時42分、木蘭応接室。

配偶者ビザの更新案件、夫婦別居中。

理由書の冒頭、「すれ違いが続き、現在は離れて生活しております」。

ここまではよくある。

問題は証拠書類として提出された「プリクラ」。

「これは……?」

「仲良しの証拠です! 見てください、落書きも“ずっと一緒💓”って」

「日付、2010年ですね」

「えっと……そうですけど、気持ちは変わってません!」

いや、変われ。

平成の恋を令和の制度に提出されても、

制度の方が戸惑ってる。

念のため、現在の関係性も聞く。

「最後に会ったのは?」

「去年の秋です!」

「……その間の連絡は?」

「あ、年賀状送った気がします!」

俺は静かに、机の引き出しから最新のLINEトーク画面と光熱費の領収書を取り出す。

比較するようにそっと差し出す。

依頼人、静かに俯く。

そして──

「……でも、プリクラの笑顔は本当だったんです」

……それだけは否定しない。

否定できるわけがない。

俺が扱ってるのは、“今も続いているかどうか”だけなのだから。

記録終了:午前11時31分

備考:プリクラは提出資料から除外。ただし、主任の机の引き出しにそっと残されている。

カテゴリー: 主任日誌