依頼者は女性。
数年前、誰かからもらったとされる便箋。
だが差出人が記載されておらず、封筒も紛失している。
「でも、なぜか“大事な人からのもの”という気がしてならないんです」
内容は短い詩だった。
使用されていた表現は、中国語圏の古典に近い文体。
翻訳というより、“文の解釈”が必要だった。
香坂では訳語選定に限界があったため、
外部協力者の阿璃(璃さん)にオンラインで構文確認を依頼。
返ってきたのは翻訳ではなかった。
ただ一文──
「この人は、書いた時、あなたに“言いたくないこと”をそのまま書いたと思います」
藤本がその文を見て、
「あの子、ほんとに“構文”じゃなくて“祈り”みたいな言い方するよな」
「俺が訳してたら、“自己保身型未練構文”に分類してた」
🐧木蘭ペンギン:
【外注構文士:璃姑娘(優しさに全振り)】
【VOIDでは“危ない子扱い”】
【主任、対訳を添えてあげて】
香坂は、阿璃の一文に合わせて訳文を仕上げた。
「これは“語られた本音”ではなく、“言うことを諦めた気持ち”です」と添えた。
依頼者は静かに、何度も頷いていた。
📝香坂後記:
言葉にしてしまうと、
“本当だったかどうか”を問われてしまう。
阿璃が提示したのは、“それでも言葉にした人の姿勢”だった。