これは誰が誰に書いた手紙なんでしょうか
午後1時33分、翻訳依頼。
文面に名前なし。宛名も署名も空欄。
1人称・2人称も不明瞭。
文章は常に主語が抜けており、
まるで独白と独白が交差しているような構造だった。
「この手紙、誰から誰へのものだと思いますか?」
依頼人も把握していなかった。
遺品の中に紛れていたものとのこと。
翻訳は、文法ではなく“感情の交差点”をなぞる作業となった。
全体を2つの視点に分け、
AとBという仮名で訳出。
木蘭ペンギンは途中で訳文を印刷しながら、
🐧「主任、たぶんこれ、
“片方の人”は実在しないですね。記憶の中だけで会話してます」
そのままプリンタの上で寝そべって、動かなかった。
藤本がA側の訳文に指を滑らせて、
「この台詞、俺なら夢でしか言わない」とだけ言って部屋を出た。
📎備考:
“誰が誰に向けたのか分からない言葉ほど、
“誰にでも届く言葉”になっていく。”