この文書、VOIDで拾いました

投稿者: 香坂湊 投稿日:

午後。依頼者は無言のまま、封筒だけを差し出してきた。
中には1枚の紙。
フォーマットは不明、差出人なし、記述言語:混合言語構文。

「VOIDに入ったとき、床に落ちてたんです。
なぜか“自分の名前”が書かれていた気がして。…でも今は読めなくて」


翻訳を請けるか迷った。
文面は途中で“構文反転”が起きており、
ある段落から「自分ではなく“別の人間”の手紙」に変化していた。


藤本:「VOID構文の典型的な症状だね。
記憶と他者の語りがシームレスに繋がってる。
たぶん“誰かのために書いた構文”を、自分が読んでるんだよ」

香坂:「じゃあこれは本人の文書じゃない」
藤本:「でも“読んだ瞬間から”それは“本人の記憶”になるんだよ」


🐧木蘭ペンギン(ホログラム表示)

【VOID構文:拾得品】
【所有権=読んだ人間】
【翻訳対象:たぶん“感情”】
【主任、また勝手に受けてる】


香坂は、文面を“感情汚染リスクあり”とラベルしつつ、
構造を抽象化して出力。
訳文の最後に、「この記録は翻訳者の解釈に基づいています」と明記。

依頼者は数分黙ってから、
「誰の手紙だったとしても、たぶん“読みたかったもの”でした」と言った。


📝香坂後記:
VOIDで拾われた言葉は、
誰が書いたかより“誰が読み取ったか”で決まる。
構文士の仕事は、持ち主不明の記憶にも意味を与えること

カテゴリー: 主任日誌