この宛先、もう存在しないそうです

投稿者: 香坂湊 投稿日:

午後3時11分、文書翻訳業務。
原文は手紙。封筒には宛名と住所が書かれていた。
だが、住所がすでに存在しない区域であることが確認された。


「この場所、もう地図から消えてるんです」
「でも、本人はそこでずっと暮らしてました」

依頼者は封筒の汚れを見ながらそう話した。


翻訳文には住所を書かず、
代わりに「かつて宛先として存在していた名称」を註釈で記載。
過去に存在した場所として処理する構文を使用。


木蘭ペンギンがホログラムに表示:

🐧「送れない手紙って、記憶の独り言ですよね。
 主任もたまには書いてみたら?」

封を閉じる瞬間、ペンギンはなぜか一礼した。
誰に対してかは不明。


藤本はこの日なぜか現れなかった。
部屋の隅に、郵便番号の消された古い葉書が一枚、置かれていた。
差出人欄は空白。


📎備考:

“もう届かない住所に向けて出す手紙は、
 たぶん“届ける”ためじゃなくて、
 “まだ届いていない自分”を出すためにある。”

カテゴリー: 主任日誌